2010年11月16日火曜日

マンガ制作ソフト『コミPo!』はマンガ家”田中圭一”の壮大なる拡張である



写真は今注目の漫画制作ソフト『コミPo!』作者の田中圭一さんです。田中さんはご自身が漫画家でもいらっしゃいます。他媒体の『コミPo!』記事では知的な雰囲気のダンディな紳士に写っていましたが。

さて、昨日お会いした田中さんは「漫画のセオリー」とさかんにおっしゃっていましたが、なんかそういう「漫画の文法」とか「漫画のセオリー」というものが漫画の世界にあるそうなのです。夏目房之助氏の本を読んで、そういうものがあるらしいということはなんとなーく知っていたんですが、自分が絵を描けるわけではないので、まぁ関係ないやと思って真剣に考えたことはありませんでした。が、『コミPo!』で絵を描けなくても漫画制作ができるような時代になると、話は違う。

いきなり漫画家になれちゃうかもよ? ということなんですよ。

これは、かつて楽器を弾けない人は音楽に関われない時代から、DTMが出てきて、楽器弾けなくても音楽の仕事ができるようになってきた、ということに近いわけです。

ミュージシャンの「楽器を弾く技術力」=漫画家の「画力」

みたいなところ。それが急にいらなくなったら、何が起こるか、という状況なのです。これは、非常に面白い。『コミPo!』は開発段階では『コミシク』と呼ばれていたそうです。コミックシーケンサーの略で、このシーケンサーは、コンピューターを使った音楽制作で使われるソフトのことです。
となると、「演奏しなくてもプロミュージシャン」になれる現代のような世界が将来漫画の世界でも起きて「絵を描けなくてもプロ漫画家」になれる時代が来るんじゃないかと思うわけですが。

というわけで、『コミPo!』作者の田中圭一さんにインタビューしてきました。というより、座談会ですね。漫画の佐藤秀峰さん、一色登希彦さん、漫画原作者の鍋島雅治さん、佐藤さんとこのスタッフの湯本さんと一緒にお話をききました。座談会の様子、詳しくはガジェ通にでも掲載しようと考えています。

個人的に一番面白いのは、ギャグ漫画で画風パスティーシュをおこなっている方の頭の中からこのソフトウェアのアイデアがでてきたというところ。田中さんを語る上ではずせないのが、手塚治虫氏の絵柄を完全に模倣してギャグ漫画を描いている、という独特すぎる制作方法。ちなみにこの画風の習得には2年ほどかかったそうです。さらに、手塚治虫氏を敬愛する奥さんと、これが原因となって離婚してしまったそうです。敬愛する作家の絵柄でエッチなギャグマンガを描いているのに耐えられないと…。壮絶すぎます。

そんな壮絶な背景のもと習得された「手塚画風」ですが、それだけにとどまらず、貪欲に「永井豪画風」「本宮ひろ志画風」「西原理恵子画風」などをマスターしてらっしゃいます。ちょっと言い方が失礼にあたるかもしれないので、本人の前では言いませんでしたが、

ひとりの漫画家の中にファミコンカセットのように「画風カセット」があって、それをガチャガチャ挿し替えて作品をつくっている図

が僕の頭の中に浮かんでしまいました。で、この『コミPo!』ってまさにそんな感じで、近い将来につく機能としては「モデリングデータのインポート」があるそうなんです。ユーザーがつくった3Dのデータやらネットで手に入る自由に使えるデータやらを取り込んで漫画にできるわけです。そうなるとあんなデータやこんなデータや、ちょっと怒られるかもしれないけどあんなデータなんかも取り込んで遊べる。これが楽しくないわけがない。

で、そしてこれって、田中圭一さんの「好きに画風を入れ替えられる漫画家」というあり方を、ソフトウェア化したってことなんじゃないか? と思うわけです。言ってみれば、田中圭一氏の拡張。人類田中圭一化計画。田中氏自身が手を動かさなくても『田中圭一的なもの』が世の中にあふれ出す。もしかしたらこれは田中氏による壮大なギャグなのかもしれない。

だって、「二次創作とかを画風データやモデリングデータを駆使してやることも可能ですよね。僕自身ははできないけど、これはツールですから、ユーザーは、やろうと思えばできちゃいます」なんて言ってのけてるんですよ、田中氏は。画風を自分の中に取り込む、という斬新な手法の次は、自分の制作手法をソフトウェア化して、世界へばら撒く。本人いわく、「このソフトはギャグ漫画向きだと思います」とのこと。これは完全に確信犯だと思います。


ウェブテクノロジ・コム¥ 9,701

夏目 房之介¥ 2,100



僕の中ではヒット確実なこのソフトですが、もちろんこのソフトに触発された漫画家さんも多くいらっしゃるようです。昨日、一緒に田中さんによる『コミPo!』の実演解説をみていた漫画家の佐藤秀峰 @satoshuho さんは、翌日こんなツイートをしていました。(Ustreamでの生放送を交えてのツイートなのでわかりづらい部分あるかも)メモとしてコピペ残しておきます。やはり漫画家として、漫画制作ツールとして使えるか、という視点からスタートしていますが、それがプロの漫画家としての作品制作とはまた別のカテゴリの新しい”マンガ”の楽しみ方、作り方があるのだというところに気づく、というところがすごい。
(追記)ご本人のブログでも感想をまとめてらっしゃいます


コミPo!というのは、「絵が描けない人でも、簡単に漫画が描けるソフト」というふれこみですから、職業漫画家の自分としては、いろいろ思う所もあるわけです。
posted at 14:38:42

もし本当に、コミPo!で誰でも漫画が描けてしまったら、自分の仕事が無くなってしまうような気もするし、誰でも描けるわけねーだろ、という気持ちもあったりして。
posted at 14:41:26

なので、コミPo!には、どうしても懐疑的な見方になってしまう部分があるんですね。
posted at 14:45:14

で、ソフトを開発したのが漫画家さんということになれば、「なぜ、ライバルを増やすようなことを、わざわざするんだろう?」と、不思議な気持ちにさえなってしまうと言うか。
posted at 14:47:40

そうですよね。いろいろお話を伺ってて、コミPo!と、これまでの漫画は、必ずしも同一線上で評価されるものじゃなく、プロにとっても、そうじゃ無い人にとっても、可能性を秘めたツールなんだと理解でき
ました
posted at 14:54:53

これまでの「漫画」という概念とは違う「漫画」が、当然、出てくるでしょうね。
posted at 15:02:56

田中圭一さんは、コミPo!を音楽に置けるウチコミに例えていらっしゃいましたが、なるほどなー、と思いました。
posted at 15:06:02

打ち込みが登場したとき、ミュージシャンの中で、それを音楽として認める人は少なかったけど、今は1つの音楽のジャンル、手法として市民権を得ていて、かつ、既存の音楽と対立するものでもないと。
posted at 15:12:32

コミPo!もそうなるという考え方ですね。
posted at 15:15:14

もちろん、漫画と音楽は違うし、打ち込みとコミPo!も同じようには比較できないんだけど、少なくとも、漫画をアナログで描く技術を身につけるよりは、コミPo!のほうが手軽ですよね。
posted at 15:20:42

んでね、もしもこの先、コミPo!がバージョンアップして、できることが増えた場合、漫画家は仕事を失うだろうか?と考えると、逆だなぁ、と思ったわけです。
posted at 15:23:25

コミPo!がスタッフの替わりになるかと言うと、それはかなり難しいでしょうね。パソコンを使えば、楽をできるというのは、半分当たりで、半分外れです。
posted at 15:31:49

そうですね。僕はコミスタというソフトで、作画の一部(仕上げ処理)を行なっていますが、それによって、作業時間の短縮にはあまりなりません。
posted at 15:37:23

コミスタで言うと、CGっぽい処理は得意ですが、手描きのタッチを出すことは手描きにはかないません。いかにもCG的な漫画を描くのは早いけど、手描きの味を出そうとしたら、時間は短縮できません。
posted at 15:40:46

例えば、カメラが発明されたとき、画家たちは、写真には芸術性が無い、と、その存在に否定的だったけど、今、考えるとおかしな話ですよね?
posted at 15:47:20

僕は、今、」トレース台を使って、、作画を行なっている最中ですが、例えば、これを「邪道だ」「手抜きだ」という人もいます。
posted at 15:51:06

そうそう、著作権を侵害したり、そういうのはいけないんですけどね。
posted at 15:56:25

あ、昨日はお疲れさまでした。
posted at 15:59:27

一色さんのお話に乗っかると、その前に時代はトーンを使うこと自体、「手抜き」と呼ばれました。
posted at 16:00:49


もっとさかのぼると、印刷自体、「手抜き」ってことになりかねないですよね?それらは、単に技術であり、ツールなんだと思います。
posted at 16:02:35

で、まぁ、コミPo!も楽しいツールの一つなんだなぁ、と思いました。
posted at 16:06:37

そうなんですよ。でね、誰が一番、新たなツールの能力を引き出せるかと言うと、漫画を描く技術を、すでに持っている漫画家達なんじゃないかなぁ、と思いました。
posted at 16:11:55

今、下描きができあがったので、ちょっと解説してみましょうか?
posted at 16:15:14

このページは、AくんとBくんが登場します。画面構成的に顔のアップが続くのですが、AくんとBくんが見分けられるように工夫してあります。
posted at 16:19:20

Aくん、Bくんとも、見分けがつかなくなったり、混乱を避けるため、それぞれ同一アングルで描いてあります。
posted at 16:20:58

3コマ目のAくんと最後のコマのAくんは、同一アングルかつ、目ん玉の位置が垂直線上にそろえて描いてあります。
posted at 16:23:53

Bくんは、2コマメトコマ目に登場しますが、赤鉛筆で塗りつぶした部分は「涙」です。同一アングルかつ、「涙」という記号が入っているので、同一人物と理解できます。
posted at 16:26:37

これが、アングルを変えたり、目を配置する位置が崩れると、読者は同一人物と認識できなくなります。僕は描き分けが下手だからね。
posted at 16:28:17

今、フキダシを赤線で囲みました。読者は、一般的にフキダシ、キャラクターの目、という順に、視線を動かしながら、物語を読み進めます。
posted at 16:30:41

読者が、このページを読む時の視線の流れを視覚化しますね。
posted at 16:31:44

ちょっと間違えちゃったけど、こんな感じ。
posted at 16:33:26

アップの連続と言う簡単な構成のページですが、このような画面設計がされています。恐らく、読者は、迷いなく、スムーズに人物を見分けた上で、読めるはずです。
posted at 16:35:29

解説はこれで終わりなんですけど、このルールを分かっていて、コミPo!などのツールを使いこなすか、知らずに使うかでは、読みやすさに違いが出てくることは想像できますよね?
posted at 16:37:24

つまり、コミPo!を使いこなすことは、それほど簡単でもないし、難しくもなく、結局、漫画への理解が必要になるのではないかと思います。
posted at 16:41:41

僕の場合で言うと、独学ですね。かしこまって誰かに教えてもらったことは無いですが、先輩の漫画家さんのお話を聞いたり、作品を読む中で、考えたことがほとんでです、で、ですね…
posted at 16:46:27

逆に絵のうまい人が陥りやすいことで、絵が上手ければ、漫画は描けると思ってしまうことがあるんですよ。でも、描けない。なぜだ?となるんですが、それは漫画の文法を理解していないからなんです。
posted at 16:48:53

そこで、昨日、田中さんもおっしゃってたのですが、コミPo!が、その文法のトレーニングになるんではないかなぁ、とは思います。
posted at 16:50:40

何か、コミPo!の回し者みたいになってきましたが、すごく可能性を感じました。
posted at 16:52:53


以上です。